ガストン・ルルー『黄色い部屋の謎』(平岡敦訳、創元推理文庫)

舞台は19世紀末のフランス。パリ近郊のグランディエ城に引きこもり研究に没頭していた高名な科学者スタンガルソン教授と、彼の娘でありただ一人の助手でもあるマティルドのもとで痛ましい事件が起こる。二人が研究所として利用していた離れの別館にて、マティルドが何者かに襲撃され重傷を負ったのだ。ところが驚くべきことに、被害者の凄惨な姿が発見された別館の一室、通称「黄色い部屋」は、内側から厳重に閂がかけられた完全な密室だった。パリ中を震撼させた事件の謎を解くべく、若干十八歳の新聞記者ルルタビーユと、友人の弁護士サンクレールは件の古城を訪れる。だが、事件現場ではすでに、腕利きの警部であり数々の謎を解き明かしてきたフレデリック・ラルサンが調査を開始していた──経験と実証に信頼を置くラルサンと、理性と論理を重んじるルルタビーユが密室の謎を巡って火花を散らす中、城では第二の不可解な事件が起こる。

新訳は読みやすく、同時に古典ミステリの趣も残されていて〇。1907年の作とは思えない新鮮さがある。トリックに関しては措くとして、ストーリーのレベルでいわゆる「ミスリード」の手法が取られており、こちらの方に驚きがあった。自身の熱烈なミステリ愛(?)を語るジャン・コクトーの序文にも一読の価値がある。