森博嗣『黒猫の三角 Delta in the Darkness』(講談社文庫)

舞台はどこかノスタルジックな日本の地方中核都市。おんぼろアパート阿漕荘に住む探偵の保呂草潤平は、ひょんなことからとある女性の身辺警護を請け負う。彼女は近所に建つ和洋折衷の大邸宅「鴎鳴六画邸」の現当主であり、何者かに命を狙われている可能性があるという。保呂草はアルバイトで彼の助手を務める大学生の香具山紫子と小鳥遊練無の二人とともに屋敷で開かれたパーティーに張り込むが、依頼人の他、彼女の父、夫、二人の子供、居候の男女、家政婦、そして「鴎鳴六画邸」かつての当主であり、現在は屋敷の敷地内にある離れの小屋「無言亭」に住んでいる瀬在丸紅子と使用人の根来機千瑛といった面々が集まるなか、一人自室に引き込んでいた依頼人は何者かに首を絞められ殺されてしまう。しかも事件現場は当時、文字通りの密室だった……。

久しぶり(10年ぶりくらい?)に再読。『すべてがFになる』から始まるS&Mシリーズに比べると影の薄いVシリーズだが、本書は表面的なミステリの向こうにさらなる奥行きのある設計で、犯人が分かっている状態で読んでも面白い。作者の志向からすれば、むしろ犯人が分かってからが本番、ということなのだと思う。個人的に、犯人はあまり頭の良い人間には見えなかった。物事を深刻に考えすぎであろう。