岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門』(岩波ジュニア新書、2003)

西洋哲学の基礎には古代ギリシアの思想とヘブライの信仰があり、まずはこの二つの基本的性格をおさえることが肝要である。そこで本書の三分の二は古代ギリシア哲学とユダヤ教キリスト教への入門編に割かれ、その後の西洋思想の展開は後半にかいつまんで解説する構成になっている。

筆者が「はじめに」で掲げるコンセプトはいたってシンプルなものだ。古代ギリシア思想の核心には人間の自由と平等の自覚、そして宇宙秩序の理性的・科学的探究がある。ヘブライの信仰の根底には神の超越性と神による人間への愛という考え方(ユダヤ教)、そして隣人への徹底した赦しの思想(キリスト教)がある。西洋思想とは常にこの変奏であり、またあるときにはこれに対する反抗である。

ジュニア新書の一冊ということであくまでも初学者むけに書かれたものであり、西洋思想を学ぶ人間がおさえておくべき基礎を漏れなく叩き込んでくれる。最近の哲学入門書にありがちな著者自身の「迷い」の身振りや「議論」の姿勢は一切ない。著者は常に知識の高みにいて、読者は低い立場からそれをただ静かに聞くことになる。そのため人によっては哲学者というよりも大学の先生を相手にしているような気持になって、「教科書的」「権威的」「独断的」等々の印象を受けるかもしれないが、そのように意欲ある読者はただ、本書を拳拳服膺したうえで他書をあたり、新しい視点を身につければよい。著者の圧倒的な国語を駆使した叙述にはほとんど文学的な趣がある。哲学を学ぶ中で三度読み返したい本である。

 

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